ある夏の日、胡瓜に割り箸を刺しただけの一本漬けを食べた。夏祭りで買ったそれを一人で齧りながら歩いた。ピンクや紫など、小綺麗な和装をした人々の人だかりができていたのはチョコバナナやパイナップルなどの屋台で、そんな喧騒を離れて端の屋台で買った胡瓜である。仕事が終わり祭りに立ち寄れたころには祭りももう終わりに差し掛かっており、屋台の看板もすでに暗くなってきていた。ヤクザ風情のおじちゃんが目に入り、このまま捨てられるのももったいないと思いポケットの小銭と引き換えに救った胡瓜である。スーツに革靴姿の人間が胡瓜を齧るのは不思議というよりも怪しい光景であっただろう。それでも胡瓜を見捨てるわけにはいかなかったのである。二人なら喧噪の一部になれたのか、と思うと急に寂しくなってきた。私が二人から一人になってしまったあの日の口の中よりも、私が縋ったその一本漬け胡瓜は少し塩辛い味がした。
(高梨辣油)
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