「ここ！僕がいる場所！」

　「ここ！ウクライナ！」ある芸人は地球儀を指さし叫んだ。それが彼の仕事であった。彼は派手な格好をして、各地を転々として営業をしていた。ある日、ウクライナで大規模なクーデターが起こった。ある青年がウクライナの首長を暗殺したのは、彼がいつもの通りにウクライナとある地で叫んだ後であった。その日から内戦がおこり、大人から、子供まで、沢山の人間が死に、ふるさとを追い出された。そして、彼がウクライナと叫んだ次の日、彼はパラグアイと叫んだ。その次の日、パラグアイで未曽有の大地震が起き、これまた多数の人間が不幸になった。そんなことが数回続いた。病んでしまった彼は、仕事を最後にすることにした。全ての暗い感情を押し殺し、いつも通り笑顔でステージに立った。いつもとの違いは、最後のネタだけだった。最後に国名を叫ぶところを、笑顔で「ここ！僕がいる場所！」と叫んだ。その瞬間に照明が外れ、彼はたまたまその真下にいたのであった。